マイトレーヤの部屋から

徒然なるままに、気楽な「男おひとりさま」の日常を綴っています。

床屋のマスターから聞いた衝撃的な話


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東京オリンピックも残すところ3日となった金曜日。正直なところ朝からテレビを見るのも飽きてきた。こういう時にスッキリする方法の一つに散髪に行くという選択肢がある。ちょうど前回散髪してから一ヶ月が経過したので、いつもお世話になっている駅前の理容室に電話を入れた。この理容室は、今春から予約制となっている。聞けばお客さんが待合で密になるのを避ける趣旨だというから、こんなところにもコロナの影響が出ている訳だ。もっとも、女性が行く美容室はだいたい予約制だから、男の理容室も予約制にするのも当然かも知れない。

▶さて、10時40分に店に顔を出すと、お客さんは私一人。ここはマスターとスタッフ一人の二人で対応している。顔なじみなので、いつもの通りでお願いしますといってメガネを外して椅子に座った。ここのマスターは話好きで、以前は「コロナの為にお客様との会話は控えさせていただきます」という張り紙がしてあったが、今日は貼っていない。

▶オリンピックは見てますかと言いながら、慣れた手つきでマスターは私の髪を切りだした。そのうち電話が鳴って、マスターが私の理髪を中断して電話に出た。新しく予約が入ったようだ。すると戻ってきたマスターがいきなり奇妙な話を始めた。話の経緯はこうだ。このマスターは駅前に店を出しているが、住んでいるのは周囲が緑に囲まれた千葉の田舎で、そこからこの店まで車で通っている。先日、彼は出勤のため車を運転中に、突然ズボンの中に何か這いずるような気配を感じた。それも何だか長さがあるもののようだ。

▶何気なく彼の話を聞いてきた私は、直感的に事態の深刻さを理解した。「エッ、それってもしかして・・・ムカデですか? 車を運転している最中でしょう?」と聞くと、マスターは鏡越しに私の顔を見ながら、「とにかく、もぞもぞ這いまわっているのが気持ち悪くて、片手でズボンのその部分をつかむと、確かに何かいるんです」と言う。私は衝撃のあまり椅子を立ち上がりそうになった。

▶私は、何が嫌いだといってムカデほど嫌いなものはない。自分が刺された経験はないが、這っている姿を見るのもおぞましい。世の中、この生き物が好きな人はいないと思うが、私がムカデを嫌いになったのは、子供のころ父方の祖母の体験談を聞いてからだ。先日ブログにも書いた父の実家は、大きな古い農家で、時々天井の梁にムカデが走る。夜中に祖母が寝ていたら、天井から大きなムカデが落ちてきて、祖母のパーマをかけたばかりの髪の中に入ったのだとう言う。

▶この話は妙にリアルで、それ以来私はムカデを見るのも嫌いになった。しかしいくら嫌いでも、長く生きていると、この嫌いなムカデに遭遇することもある。以前住んでいた大網白里市の家にもムカデが出たことがある。娘の部屋にムカデが入ってきて、彼女は冷静にそのムカデを窓の外に追い出したのだ。しかし私には不安が残った。どこかにムカデが潜んでいるはずだと・・・。

▶案の定、2~3日たった朝、玄関に置いてあったゴルフバッグを動かそうと持ち上げると、突然そこからムカデが這い出した。気分的には半狂乱となって、なんとかそのムカデを踏み潰したが、しばらく心に傷が残った(※恥ずかしい話ですが)。また、数年前、中学校の同窓会を水上温泉の旅館でやった時、同室の同級生が部屋で酒を飲んでいる途中にムカデに刺されたことがある。この時は小さなムカデだったが、刺された本人が突然「痛っ!」と叫んだので、敏感な私はすぐムカデだと分かった。この時も旅館のスタッフを巻き込んで大変だったが、とにかく私はムカデが嫌いなのです。

▶話を戻すと、理容室のマスターは、その得体の知れない紐のようなものをズボンの上から握り締めたまま店に着いて、ズボンを脱いで調べると、10㎝くらいあるムカデだったとのこと。彼が強く握ったため、ムカデは頭を残してちぎれた状態になっていたというから、私は彼の勇気?に深く感動した。(※もしそんなことが我が身に起こったら、狂乱の余り重大な交通事故を起こしていたに違いない。イヤ、ホントの話。)幸いなことに、そのムカデはマスターに嚙みつかずにズボンの布地に噛みついたようで、ちぎれたあともその頭はズボンに噛みついたままだったというから、本当に(※冗談でなく)ムカデは恐ろしい。

▶私が相づちを打ちながらマスターの話を聞いていたからなのか、調子に乗ったマスターは今度は蛇の話を始めた。彼の家は田舎にあるので、小さな鶏舎にニワトリを飼ってるという。ニワトリの世話は彼の母親が専らやっているのだそうだが、その母親は以前から蛇が卵を盗みに来ると言っていたが、マスターは時々物置の中にアオダイショウを見かけたりすることもあったので、そうかも知れないと思っていたという。(※マスターは蛇はあまり怖くないようだ・・)

▶ある朝、蛇がヒヨコを飲み込んだと、その母親が血相を変えてやってきた。彼が鶏舎に駆けつけると、ヒヨコを飲み込んだ蛇が、腹が膨れすぎて鶏舎の隙間から外にでられず鶏舎の隅にとぐろを巻いている。「卵を呑むくらいだったら許してあげるんですけど、ヒヨコが呑まれたらヒヨコも可哀そうですし、それで蛇のしっぽをつかんで振ってみたんですけど、呑まれたヒヨコが出てこなくて・・・」と話す。私は顔を剃られていることも忘れ、「そ、それでどうしたんですか」と思わず聞かざるを得ない。

▶「仕方がないんで、ナイフで蛇のお腹を割いてヒヨコを外に出したんですが、既に死んでいました。蛇はそのままにしておいたら、スルスルと逃げて行ってしまいました。自分は蛇に可哀そうなことをしたなと思って、一瞬、割いた腹を縫ってやったらよかったと思ったんですけどね」と平気な顔で言う。さっきのムカデの話といい、この蛇の話といい、このマスターはただものではない。

▶ところで、それから2~3日経った後、突然マスターの腰が痛みだしたのだそうだ。母親は蛇の祟りかもしれないというので、鶏舎の片隅に線香を立てて形ばかりの蛇供養をしたら、その後痛みが治まったのだそうだ。ちなみに、彼が友人から聞いた話では、蛇を真っ二つにして殺してしまった人が、オートバイで事故にあって両足を切断したこともあるというから、「本当に、蛇の祟りって怖いですよね」と鏡の中の私の顔を見て真顔で言う。私には蛇の祟りよりこのマスターの方が怖くなった。

▶気が付けば、40分あまりがあっという間に過ぎて、私の理髪は終了した。マスターは何事も無かったような顔で、私の衣服についた髪の毛を払ってくれて、「いつもありがとうございます」と言って料金を受け取って私を送り出してくれた。私は、髪を切ってもらったうえに、衝撃的な話を聞かせてもらい、スッキリというよりドッキリとした気分で強い日差しを避けながら家まで戻った。それにしても、マスターが勇気があるのか、私が弱虫なのか・・・。

閑話休題。実は、上記の話の最後に、マスターの家族に関する更に「衝撃的」な秘密が明かされた(※彼は別にその話を苦にしているわけではない)のだが、彼のプライバシーにかかわることなので、ここに書くことはできない。決してもったいをつけるわけではないが、いずれにせよ、それは上記の話に劣らず、真に「衝撃的」な話だった。