マイトレーヤの部屋から

徒然なるままに、気楽な「男おひとりさま」の日常を綴っています。

妻の三回忌とその後

▶9月4日は、亡き妻の三回忌の日だった。妻の命日が近づいてくるにつれて、亡くなった当時の生々しい思い出が蘇ってくるのはしかたのないことだが、今年は昨年と比べると、心のざわめきが少なかったような気がしている。昨年のこの時期、庭のパーゴラに絡んだノウゼンカズラの樹からオレンジ色の花が見事に垂れ下がり、地面には落ちた花房があちこちにころがっていた。私は、その花を見るたびにいたたまれない気持ちになった。その前の年、病床にあった妻は、居間の窓越しに、次から次に花房をつけるこのノウゼンカズラの樹を、虚ろな面持ちで眺めていたことを思い出したからだ。

▶今年は、春先に思い切って古くなったパーゴラを撤去した。その際、ノウゼンカズラの樹も大幅に剪定してしまったので、今年の夏は、あの鮮やかなオレンジ色の花を見ることはなかった。しかし、正直に言えば、妻と一緒に見上げたあの鮮やかなオレンジ色の花が見られないことは何だか寂しい気分だ・・・と思っていたところ、日課となった朝の散歩から戻る時に通りから我が家の庭を見ると、ノウゼンカズラの花が咲いているのを見つけた。家の中からは見ることができなかったが、実は今年も変わらず花が咲いていたのだ。思わず、「今年も咲いたね」と声をかけてしまうような、そんな懐かしい気持ちが蘇った。
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▶9月に入って、妻の友人達から電話をいただいたり、お花や供物が届いた。妻のことを忘れずにいてくれる人がいるのだと分かると、妻はまだ彼女たちの間で生きているのだという気持ちが沸き上がってきて、とてもありがたい気持ちになる。

▶三回忌の法要は、前橋の菩提寺で家族のみでひっそりと営んだ。本来であれば、法事が終わったあと、住職も招いて直会(なおらい)の昼食をとるのだが、群馬県にも緊急事態宣言が発出されたのでそれもできない。仕方がないので、終了後は三々五々、千葉まで戻ることにし、昼食はそれぞれが途中でとることにした。

▶千葉の我が家に子供たちの家族全員が戻ったのを見計らって、桜木町の市営霊園に眠る妻の墓参に出かけた。墓前には、既にどなたかが供えてくれた生花が飾ってあった。おそらく妻の友人のどなたかが供えてくれたのだろう。雨模様の一日ではあったが、前橋と千葉にまたがる三回忌の法要を無事に終えることができて(※何より、私自身、この2年間の一人暮らしを無事乗り越えることができて)、私としては肩の荷がおりた心地がした。その晩は、我が家で子供たち家族全員で夕食をとった。その場には、昨年生まれた妻の知らない孫娘もしっかり参加したから、まさに2年という時の流れの重みが感じられる一日となった。翌5日の午前、子供達の家族が引き上げると、家の中は潮が引いたように静かになって、私の日常が戻ってきた・・・。

▶家の中の片付けが終わった午後、窓際に置いた椅子に座って本を読む。本を開いているのだが、何だか身が入らないというか、集中できずにぼんやりと庭を眺めていたら、携帯が鳴った。友人からの電話かなと思って出ると、行きつけの海鮮小料理屋の女将さんからだった。千葉に緊急事態宣言が発出されて以降、ここは営業を中止しているはずなので、営業再開の目途でもついたのかと思ったら、そうではなかった。

▶しばらく店を閉めていたが、店に生ビールの在庫が少しあるので、個人的に常連さんに提供したいので飲みに来ませんかというお誘いだ。生ビールには目のない方なので、一も二もなくOKして、夕方から店に出かけた。三々五々知った顔の常連さんが集まり、「いやあ、お久しぶりですね、どうしてましたか、お変わりないですか」という挨拶を交わす。今日は、店の営業ではないので、代金はいただきませんという女将さん。それに外から見て営業していると見られるのも困るので、シャッターを半分以上下げておきますね、とのこと。

▶私は何も持参せずに出かけたが、家から娘さんが作ってくれた総菜を持参してきた人や、近所で揚げたてのコロッケを買ってきた人、駅前の王将で焼き餃子を買ってきてくれた人などがいて、テーブルの上には沢山の料理が並んだ。参加した人の平均年齢は、どうみても70歳は超えていそうだが、皆さん元気で、次々にビールのグラスが空いた。たまたま、私が書いているこのブログのことが話題に上ったが、その際、大先輩の一人から「あなたのブログの内容はレベルが高いので・・・」と言われてしまった。そういうつもりで書いている訳ではないのだが、もう少し読みやすくしないといけないのかと思った次第。だが、これは別の話。

▶お開きになったのが、午後9時を過ぎていたから、結構な時間、その店にお世話になっていたことになる。結果的に、パラリンピックの閉会式も見ることがなかった。帰り際、出る時は誰かに見つからないようにサッと出てくださいと女将さんが冗談とも本気ともつかない声で言う。全員で女将さんにお礼を言って外に出たが、通りには殆ど人が通っていなかった。

▶いい心持ちで家に帰り、仏壇の妻の遺影に「ただいま」と声をかけると、「楽しそうで良かったわね・・・あなただけ」という声が聞こえるような気がした。