マイトレーヤの部屋から

徒然なるままに、気楽な「男おひとりさま」の日常を綴っています。

風に吹かれて・・・


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▶学生だった頃、小遣いを貯めて買ったギターで最初に覚えたのは、PPM(ピーター・ポール&マリー)の「風に吹かれて」だった。平易ではあるが深淵な内容を示唆する詩を、PPMは哀愁味のある調べにのせて歌ったが、この歌をボブ・ディランが作詞・作曲して自ら歌っていると知ったのは、しばらく経ってからだった。しかもボブ・ディランは、岡林信康高田渡など、その後の日本のフォーク歌手に大きな影響を与えており、まさに日本のフォークブームの源流に位置する歌手とも言えるが、それも後から知ったことである。

ボブ・ディランは、1941年生まれのアメリカのシンガー・ソング・ライターで、2016年に歌手として初めてノーベル文学賞に輝いたことで世界中を驚かせた。しかも彼が最終的に受賞するかどうか不明だったため、世界中の人をヤキモキさせたことは記憶に新しい。そのディランが歌った「Blowing in the Wind(風に吹かれて)」は、1963年にリリースされた。アメリカの公民権運動に触発されてディランが作ったとされているが、全体としてみると反戦歌に聞こえる。だからこの曲は、その後に続く時代を象徴する歌であって、詩もメロディーも素晴らしいので、PPMはもちろん、多くの歌手にカバーされ今日に至っている。

▶以下、ディランの「風に吹かれて」を私なりに訳してみた。

どれだけ長い距離を歩いたら 人は人として認められるだろう 
一体いくつの海を越えたら 白鳩は砂の上で休めるだろう 
どれだけの砲弾が飛び交ったら 人は撃つことを止めるだろう 
友よ、その答えは風の中に舞っている 

山は今のまま一体何年存在し続けるだろう 削られて海に流されるまで
一体何年かかるだろう 人々が自由を手に入れるまでに
人は何度顔を背けるだろう 見るべきものを見ないふりをして
友よ その答えは風の中に舞っている

人は何度空を見上げれば 本当の空を見ることができるだろう
人は一体いくつ耳を持つことができたら 人々の悲しみの声を聞けるようになるだろう
どのくらい多くの人が死んだら あまりに多くの人が死んだことに気づくだろう
友よ その答えは風の中に舞っている 

▶私は、「Blowing in the Wind」を風の中に舞っていると訳したが、日本では風に吹かれていると訳すのが普通だ。「風に吹かれて」という言葉のインパクトは強烈で、小田和正エレファントカシマシ森高千里などが独自の「風に吹かれて」という同名の曲を作っている。もちろんこれらはディランの「風に吹かれて」のカバーではない。

▶さて、ここまで書いてきたのは、昨日21日のNHKクローズアップ現代を見ていたく触発されたからだ。21日に東京で一仕事終えて(途中、駅前の居酒屋に寄って)家に戻ったのは午後7時半だった。テレビをつけると、クローズアップ現代にサザンの桑田佳祐が出ていた。極めて珍しい。

▶何のことかと見ていたら、66歳になる桑田が、同じ歳のミュージシャン4人(佐野元春世良公則野口五郎、Char)に声をかけ、5人共同で新曲「時代遅れのRockn roll Band」をリリースしたとか。その曲の歌詞の一部にはNo More, No warというくだりがあり、いささか時代遅れだが、平和への思いとして、音楽人として声を上げるなら今しかないという趣旨のインタビューだった。

▶66歳の5人は私の年齢に近いが、いずれも若々しい。時代遅れと謙遜しながらも本音は第一線で走り続けたいという彼らの思いとその姿を見ながら、まだまだ自分も老け込むのは早い、十分に若いではないかと、とても自信をもらった気分になった。そしてその後、桑田がギター一本で、ボブ・ディランの「風に吹かれて」を自分の訳で歌い、桑子アナがハモったのだ。エンタメ番組として見ても素晴らしかった。これが本当にクローズアップ現代なのっ、てね。

▶桑田は、答えは風に吹かれているという歌詞の意味を、若い時は「答はそれぞれの胸の中にあるのだろう」と解釈していたが、最近はディランは「答なんてない、あるんだったら言ってみな」と言っていると思うようになったと。桑田は50年も前から「風に吹かれて」を知っているが、まさかこの時代のこの時に自分で新訳をつくって歌うとは思わなかったと言っていた。

ウクライナでは、今この時も、悲しみの声が充満している。そうだよね、それにしても人間て、哀しい存在だよな・・・と思った瞬間だった。