マイトレーヤの部屋から

徒然なるままに、気楽な「男おひとりさま」の日常を綴っています。

ジャニーズ問題に沈黙するメディアの罪


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▶今年の3月7日、日本社会にとっては極めて不名誉かつ不都合な一つの特集番組「J-POPの捕食者」が、イギリスの公共放送であるBBCによって放送された。「JーPOPの捕食者」は、ジャニーズ事務所の創業者のジャニー喜多川氏(2019年に死亡)が、スター志望の所属タレント(殆どが未成年もしくは中学生)に対し、自らの立場を利用して長年に亘って性的な加害行為や人権侵害を行っていたという唾棄すべき事実を白日の下にさらけ出したのである。

▶これとは別に、4月12日に元ジャニーズ事務所のタレントだった岡本カウアン氏が、日本外国特派員協会の場で、自らがジャニー喜多川氏の性被害者だったことを公表し、記者会見を開いた。会見では岡本氏は15歳の時から15回にわたりジャニー喜多川氏から性的な関係を強要され、彼はその証拠の一つとして、ジャニー喜多川氏の自室の鍵や動画も公開した。これが事実とすると、ジャニー喜多川氏は、2019年に亡くなる寸前まで同様の行為を継続していた可能性がある。

▶ところが驚いたのは、この問題に関して最も関係が深く、かつ知り得る立場にある日本のテレビ局や一般メディアが、長年にわたって沈黙を続けているという事実である。安倍元首相に対する「忖度」について、あれほど舌鋒鋭く追及してきた民放各局や一般紙は、これほどの大スキャンダルであるにも関わらず、この問題をまったく取り上げる気配はない。事情は公共放送であるNHKも同じである。彼らは一体何に対して「忖度」しているのか。

▶私がこの問題を知ったのは、実はつい最近のことである。そして、今日何気なくYou Tubeの番組を見ていた時、中田敦彦氏の「You Tube大学」がこの問題を取り上げていることに気が付いた。中田敦彦氏は元吉本の芸人出身のYouTuberで、歴史や哲学、経済問題から難解な数学上の問題などを、分かりやすい言葉で面白おかしく解説することで若い人を中心に絶大な人気がある。私の息子も、中田氏にハマっている一人のようだが、彼の影響で、私も最近よく彼の番組を見ている。

▶しかし、今回の中田氏の番組は、いつもの面白教養番組とは打って変わって、広告を一切打たずに英文の字幕までつけての本格的な報道番組で、冒頭になぜ彼がジャニーズ問題を取り上げるに至ったのかという長いイントロがあり、言葉の使い方も極めて慎重で、彼がこの番組の公開を決意する上でかなりの葛藤があったことをうかがわせた。私はこの問題に関していくつかのYouTube番組を見たが、中田氏の解説の客観度が最も高く、また事実関係を把握しやすい。以下は、この番組から得た情報である。

ジャニー喜多川氏による所属タレントへの性的加害や人権侵害には長い歴史があり、しかもその疑惑は、被害者の暴露本の出版という形や週刊文春の報道で、1980年代から現在まで一貫して公開されている。1988年に元フォーリーブス北公次氏が「光GENJIへ」と題した本の中で15歳で喜多川氏と性的関係があったことを公表。翌89年には元ジャニーズの中谷良氏が「ジャニーズの逆襲」で自らが11歳の時に性被害を受けたことを告白。

▶しかし、マスコミはこれらの暴露本の存在を一切無視したことで、世間的な広がりにはつながらず、逆に90年代に入ってからSMAPTOKIO、V6、KinkiKids、嵐が一世を風靡する。しかし、その間も1996年平本淳也氏「ジャニーズのすべて 少年愛の館」といったそのものズバリの本や、1997年豊川誕「ひとりぼっちの旅立ち」が出版されるも一般のマスメディアは一切無視。

▶1999年、この問題について唯一取材を継続してきた週刊文春が、14週連続で特集を組んでジャニー喜多川氏を告発するも、逆にジャニーズ事務所週刊文春を名誉棄損で東京地裁に訴えた。この裁判では2003年に東京高裁がジャニー喜多川氏の性的虐待の事実を認定し、ジャニーズ事務所側が上告したが、最高裁は上告を棄却する。この時、ジャニー喜多川氏は「私は彼ら(タレント達)が嘘を言っていると断定することはできない」という迷発言をして、なかば事実を認めている。ただ、裁判としては週刊文春側の名誉棄損が一部認定されて文春は形式的には敗訴という形となる。

▶問題は、この時も大手メディアは沈黙したことだ。週刊文春が自らの身体を張って報道するも、一般大衆はこの問題に興味を示すことはなかった。何故なら熱狂的なジャニーズファンは、男性トップアイドルの性的スキャンダルの話など見たくも聞きたくもなかったし、NHKを始め民放各局もジャニーズ事務所が供給する男性タレント抜きでは娯楽番組(紅白歌合戦大河ドラマもバラエティーも)を作ることはできず、ジャニーズ事務所(喜多川氏)には逆らえないという現実があったからだろう。

▶要するに、この問題はトップアイドルになれなかった者は勇気をもって暴露できても、現在トップアイドルにある者や、ジャニー喜多川氏亡きあとのジャニーズ事務所、あるいは娯楽番組を提供するテレビなどのメディアは、積極的にこれら事実を認めたり追及したりはできない構造にあるのだ。それらは全て自らの不利益につながることを彼らはよく知っているからである。そしてジャニー喜多川氏自身も、この問題が大きな問題になることはないだろうと思っていたのではないか。喜多川氏の性的指向が事実なら異常であるのは否定できないが、近くにいる者は全て分かっていたはずなので、私には彼らの沈黙の方がさらに異常に思えてならない。

中田敦彦氏は、自らのYouTube番組の中で、ジャニー喜多川氏の長年に亘る少年に対する性的加害行為や人権侵害(小柄な少年が好きなので男性としての成長をさせないために女性ホルモンを注射させるなど)が刑法で罰せられなかったことについて、日本の刑法のあり方の欠陥を指摘している。実質的に女性しか対象としていない明治40年施行の「強姦罪」が、2017年になってやっと「強制性交等罪」という形で男性も含める形で改正されたが、性同意年齢が13歳以上と先進各国の中で最も低いなど問題が多いという。(※13歳以上なら同意があれば犯罪にはならない。13歳未満なら同意があっても処罰される。)

▶いずれにしても、この問題は簡単には治まりがつかないだろうし、治まりをつけるべきではない。4月22日にはジャニーズ事務所藤島ジュリー景子社長名で簡単な文書が公表され、23日には新聞やテレビで小さな報道がなされたが、これで終わりになったら、この国の民主主義や民度のレベルが疑われる。そうすればジャニーズ事務所のタレントは日本での活動はできても外国では総スカンを食らうことになるのではないか。被害者のタレントに何の罪もないが、隠し続けるメディアの罪は限りなく大きい。