マイトレーヤの部屋から

徒然なるままに、気楽な「男おひとりさま」の日常を綴っています。

「あまちゃん」ロス


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▶今日から10月1日。月替わりのカレンダーをまた一枚めくる。「中秋の名月」は過ぎたが午前の窓外の陽射しの色は相変わらずで、関東地方ではまだ秋というには遠い気もするが、どうだろうか。季節の変化は緩慢だが、今年度も自動的に後半に入った。聞けば今日からビールの酒税が下がるという。私のようなビール党にとってはありがたいニュースだが、さりとて私の日常がそんなに大きく変わるということも、おそらくない。

▶それよりも、10月になって毎朝楽しみにしていたNHKの朝の連続ドラマが終わってしまったことの方が、ショックである。連ドラといっても「らんまん」のことではない。失ってしまったことを嘆く姿を、最近では〇〇ロスというようだが、牧野博士をモデルにした「らんまん」も毎日見ていて、とても丁寧に作り込まれたドラマであると感心はしたものの、終わってからロスに陥るほどではなかった。私の場合のロスは「あまちゃん」である。

▶「あまちゃん」は今から10年前の2013年度の前半に、NHKで制作・放送された連続テレビ小説(※この表現が懐かしい)のことで、岩手県三陸鉄道久慈駅をモデルにした架空の「北三陸駅」と、久慈市小袖海岸をモデルにした「袖ヶ浜海岸」が主要な舞台となっている。脚本は宮藤官九郎、主演は撮影当時19歳だった能年麗奈さん(※現在は、「のん」に改名)。

▶物語は、北三陸で「北の海女」を目指す東京生まれの女子高校生天野アキ(=能年麗奈)が、突然東京に戻って今度はアイドルを目指すことになるという極めて漫画チックなストーリーなのだが、展開に不思議と違和感がなく、北三陸と東京の日常風景を同時並行的にコミカルに綴っていく作者・宮藤官九郎の技が冴えわたっている。劇中ではアイドル志望のアキが一貫して「おらぁ、〇〇がしてえ」と岩手弁をしゃべり続ける面白さがあり、これまでの連ドラでは見ることのなかった新鮮さを生み出している。劇中で驚いた時に発せられる「じぇじぇじぇ」という岩手方言は、2013年の流行語大賞になった。

▶このドラマが放送された2013年は、私はまだ現役でバリバリ仕事をしていた頃で、あるとき同僚の一人が仕事中に突然「じぇじぇじぇ」と叫んだことで、このドラマの存在を知った。だが、当時は忙しかった(※けど懐かしいねぇ)ので録画してまでは見ようとは思わず、15年の再放送時も気がつかないまま時が流れていった。そして今年の4月にBSの番組欄を見ていたら「あまちゃん」が再放送されることを発見。時間帯が午前7時15分からだったので、毎日録画して昼間の時間帯に何話分かまとめてゆっくり見ることにしたのである。

▶このドラマが極めて高い評価を受けているということについては、全く異論はない。今回の再放送が始まってからも、根強いファンがいるものとみえて、たちまち多くの「あまちゃん」賞賛の声が上がった。終盤に入ってからは、2011年3月の東日本大震災の惨状もドラマの中に上手く取り込み、それを主人公たちが明るく乗り越えていく姿が描かれているが、これを震災直後の13年に制作・放送したという作者とNHKの意図も、見事に伝わってくる。

▶そして昨日再放送が終了したわけだが、本日現在、ネットには「あまちゃん」ロスの声が満ち溢れている。私も最終週の録画は消去せずに何回も見るという凝りようで、我ながら驚く。実は、ドラマでは劇中で歌われる「潮騒のメモリー」という歌が、大きなテーマの一つであり、しかもそれが伏線となっている。この歌は大女優・鈴鹿ひろ美(=薬師丸ひろ子)の持ち歌なのだが、鈴鹿(薬師丸)自身は音痴の設定で歌うことかなわず、替わりにアキの母親である天野春子(=小泉今日子。彼女も昔アイドル志望だった設定)が影武者として歌ってレコーディングした過去があるという凝った構成となっているのだ。

▶ドラマではアキ(能年玲奈)も春子(小泉今日子)も「潮騒のメモリー」を歌う場面があるが、圧巻だったのは最終週に音痴のはずの鈴鹿薬師丸ひろ子)が満を持してこの歌を歌う場面。これには鳥肌がたった。劇中で能年や小泉が歌う「潮騒のメモリー」も悪くはないが、それほど大したこともない。一方、同じ歌を薬師丸が歌うとこんなにも美しく聞こえるものかと感心しっぱなしだった。彼女の歌唱力は凄い。彼女は自分の実際のコンサートでも「潮騒のメモリー」を歌っている。その様子はYou Tubeでも鑑賞できるので、興味のある方はどうぞ。

▶出演した役者さんたちのコミカルな演技は、いずれも良かった。アキの祖母役の宮本信子は安定して上手かったし、小泉今日子の演技も意外に良かった。しかし「あまちゃん」成功の要因は、何といっても作者の宮藤官九郎の脚本に帰するといっても過言ではないだろう。10年前には私は宮藤の名前を知ることはなかったが、三谷幸喜や大御所の山田洋二監督の流れを引き継ぐ新しい才能であることを実感した。

▶10月からはNHKの新しい連ドラが始まる。好評だった牧野富太郎博士をモデルにした「らんまん」は終わり、今度は戦後の歌手笠置シズ子をモデルにした「ブギウギ」である。ジャニーズ事務所のタレントが出演するのかどうかは知らないが、そういうことは別にして、NHKには面白いドラマ作りを期待したい。10年前は、余裕がなくてNHKの朝の連ドラを期待する気分など思いもつかなかったが、よくしたもので10年経ってそういう余裕ができたら、そういう自分を発見した。しかしこれは喜ぶべきことなんでしょうな。「あまちゃん」ロスに浸りながら、複雑な気分である・・・。