マイトレーヤの部屋から

徒然なるままに、気楽な「男おひとりさま」の日常を綴っています。

為替レートって何だろうか・・・


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▶円安が進んで現在は1ドル=148円くらいになっている。今年の初めころは確か1ドルが110円くらいだったから、その頃と比べれば円は3割も下落したことになる。しかし、110円のものが148円になったとしたら、普通は高くなったと言うべきだろうが、なぜかこの場合は円が安くなったという。これは表記の仕方がおかしいのでこういうことになる。

▶現在の円とドルの為替表記では、円の価値を表すのに、1ドルが円でいくら相当になるかという形(例えば1ドル=148円、もしくは148円/1ドル)で表す。これは一般的にいって、ドルの価値を円で表している姿である。それなら逆に1円が何ドルになるかという形で表せばいいではないかと言うと、例えば1ドル=148円の場合、1円=0.00675ドルという形になる。

▶この場合、右辺のドルを表す数字に小数点以下の端数が付くので、一見して分かりにくい。ただ、このように表記すると、年初は1円=0.00909ドルだった円の(ドルで表した)価値が、現在は1円=0.00675ドルなので、これなら確かに円が安くなっていると実感できる。さらに両辺を1000倍すると、1000円札一枚の価値がよくわかるようになる。つまり年初は千円札一枚がアメリカでは9ドル9セントだったが、現在は6ドル75セントの価値しかなくなったことを表している。つまり千円が安くなったのである。

▶円が安くなったというと、ドルの価値が不変で円の価値だけがズルズルと安くなってきたように感じられるが、これは正確な物言いではない。円はドルに対して価値を下げたのは事実だが、ドルから見ると、円に対してドル価値が上昇しているように見えるのだ。だからアメリカ人はこの為替レートの変動をドル高と呼んでいる。だれでも自分の国を基準にして考えるから、円安と言おうがドル高と言おうが勝手だが、問題がない訳ではない。

▶なぜなら、年初からドルは殆ど全ての主要通貨(ユーロ、ポンド、元、ルーブル等々)に対して高くなっているからだ。つまり現在の為替レート変動は、ドル高の要素が極めて大きいと言っていいだろう。ここまではほぼ間違いなく言えることだが、それではドル高になった原因は何かと問われると、これは正確には誰にも分からない。テレビを見ていると、エコノミストや経済評論家と称する人が、現在の円安ドル高の原因が、日米金利差にあると言ってしたり顔をするが、これが本当なのかどうかは神のみぞ知る世界だ。金利は為替レートを変動させる要因の一つに過ぎないからである。

金利について言えば、先週のNHKの日曜討論を見ていたら、民間シンクタンクの研究者が、経済学的に言えば、円安是正のために日銀は直ちに金利を上げるべきだと主張する一方、日銀出身のエコノミストが、円安是正のニーズは分かるが、経済学的には日銀が直ちに金利を上げる必要はないと言い切っていたのが実に面白かった。偏差値の高そうな人達が同じ事象を見て、しかも双方とも同じ経済学を基盤に理論展開しているにも関わらず、言っていることが正反対なのがおかしい。経済学というのは、どういう学問なのだろうか分からなくなった。

▶そもそも、日銀の黒田総裁は、物価上昇が2%を越えたら金利を上げると明言し、現在も明言しているが、足元既に2%以上のインフレになろうとしているのに金利を上げる気配はない。何故かと問われて、足元のインフレは輸入コストプッシュ型の悪いインフレであって、日銀が目指す賃金上昇を伴う正しいインフレではないからだと言う。これについても日曜討論では侃々諤々の議論があったが、ここまでくると経済学論争というよりまるで神学論争である。

▶為替レートの話に戻すと、現在のレートを基準に考えると、年初との比較では日本のGDPや防衛費や賃金レベルは、アメリカと比べると一挙に30%も急減したことになる。これを取り上げて、国難が来たように大騒ぎをする人もいるが、為替レート自体は所詮一時的な通貨交換の為の方便に過ぎず、しかもそれ自体は株価と同じようにランダムに動くしろものなので、これに過剰に反応することは慎むべきだろう。その時々の株価が企業価値と大きく乖離することがあるのと同様、為替レートも時によって通貨の実質的価値と大きく乖離する。であれば、見るべきは足元の為替レートではなく、通貨の実質的価値である。そして長期的には、足元のレートも通貨の実質価値に収斂していくものだ。

▶かつて私が現役で仕事をしていた時、瞬間的に1ドルが79円の円高局面が到来したことがあった。ドルベースで換算すると日本企業のコストが異常に高くなったことを捉えて、当時の経営者の一人は、後戻り不能の固定費の大幅削減と事業構造の転換を言い出した。為替の変動によって、個々のモノの外貨ベース価格は変動するが、モノの実質的な価値までも急激に変動する訳ではない。だから、為替の異常とも言える変動に対して過剰に反応するのはよくない、下手をすると経営のかじ取りを間違うことがある、と当時の私は思ったものである。

▶少し前に、かつて財務省の財務官として「ミスター円」と呼ばれた榊原英資氏が、テレビに出ていた。榊原氏は、日本経済は決して弱くはない、しかし円安は簡単には止まらない、円安介入はうまくいかない、金利は黒田総裁が交代するまでは上がらない、と言っていた。私は、氏が言っていることの確からしさは判断できなかったが、その自信と余裕のある態度に、氏の力量に並々ならないものを感じた。すべからく国家のかじ取りをするような人は、かくあって欲しいものだ。