マイトレーヤの部屋から

徒然なるままに、気楽な「男おひとりさま」の日常を綴っています。

自民党総裁選に思う国民の幸せ


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▶今日は敬老の日理容院に行くと散髪代を若干割り引いてくれたり、ゴルフ場では利用税が免税になるので、客観的には私も老人の仲間入りをしているようだが、本人にしてみると、とんと自覚がない。電車に乗っていて席を譲られた経験は一度もないし、どこかの誰かから「おじいさん」と呼ばれたこともない。孫は私のことを「ジイチャン」と呼ぶから許しているが、「じいさん」と呼ばれたら張り倒すかもしれない。

総務省は15日、65歳以上の高齢者の推計人口を3625万人と発表した。日本の国が始まって以来の多さであることだけは間違いない。一方どのように集計したのかは知らないが、厚労省によると日本人の健康寿命は、女性75.38歳、男性72.68歳なのだという。但し、この統計は2019年時点のもので、2001年の時は女性72.56歳、男性69.4歳だったから、およそ18年間に3歳も健康寿命が延びたことになる。高齢者の推計人口増加は驚かないが、健康寿命が毎年延びているという事実には驚く。

▶若くして亡くなる人が多いというのは、貧困や病気、戦争や事故が原因である。日本は戦争に負けてから80年の間にこれらの課題を殆ど克服して、とうとう平均寿命と健康寿命は世界一となった。そして現在1億26百万人の日本人がこの恩恵を享受している。人々がこれほど健康で長生きできる社会というのは、昔で言えば「桃源郷」の世界であるが、これを実感したり喧伝する人は少ない。どうしてか。あまりにも当たり前すぎるからである。

自民党の総裁選挙が始まり、9人が候補者に名乗りを上げた。田中真紀子はこの状況に対して、「総理大臣の何たるかが分かっていない。まるで町内会の福引抽選会のようなもので、買物券が20枚集まったので私も福引抽選会に行けると勘違いした連中が集まっている」と毒づいているとか。思わず笑ってしまうのは、彼女の発言が、政治家というより芸人(※上岡竜太郎やビートたけし)と同レベルのものだからだ。

田中真紀子の冗句はともかくも、9人の候補者が言っていることを聞いていると、彼や彼女らの目指す方向には、ある種の偏りがある。全員が目先の課題、すなわち実質経済成長・所得増加(地方を含めた)の推進、安全保障の確保、少子高齢化(教育を含む)への対応を程度の差はあれ同じように訴える。何故か。それは、国民やマスメディアが彼らに同じように求めるからであり、国民が望むことを実現するのが政治(※あるいは民主主義)の本質であると思っているからだ。

▶日本が世界一の長寿国になった理由は、戦後の経済成長に最も成功したからであり、その前提となったのが日米安保体制による平和確保であることには異論がない。しかし、冷静に考えると、ここ30年は日本は殆ど経済成長をしておらず、にもかかわらず老齢人口は増加し、中国やロシア・北朝鮮とはかつてないほど緊張が高まっている。最近は、北朝鮮弾道ミサイル発射が日常茶飯事(※今年になって少なくとも10発)となっているが、誰も驚かないほどだ。

▶だから自民党に限らず日本の殆どの政治家は、経済成長と日米安保の強化を訴えるが、私は最近になって、この思想は間違っているのではないかと思い始めている。15日の読売新聞の一面「地球を読む」に地理学者のジャレド・ダイアモンド氏の投稿が掲載された。氏の主張は、マネーで少子化を止めることはできないし、少子化は悪いばかりでないということで、政治家は決して少子化の利点を口にしないとも述べている。

▶そもそも戦争の引き金になるのは、あくなき経済成長の追求とそれに基づく拡張主義であり、古代ローマ帝国を始めとして、覇権を握った国家の成立は戦争を抜きには考えられない。15世紀になって大航海時代に入るとこの傾向は地球規模に膨らみ、資源獲得競争に更に拍車がかかる。そして帝国主義から第一次・二次の世界大戦に進んでいくというのが世界史の教えるところであり、日本の満州侵略もこの一環であるが、背景にあるのが人口増加である。

▶ダイアモンド氏が言いたいのは、現在の世界人口80億人が多すぎるということで、資源問題とその裏にある環境問題、食料問題などは全て人口増加が引き金になっているので、先進国が少子化に向かうというのは決して悪いことではないのだと述べている。しかし、先進国の政治家で自国の人口が減ることがいいことだと言う人はいない。人口が減ると経済成長しないからだというのがその理由である。

▶しかし、永遠に人口が増え続けることはないし、永遠の経済成長がないのは、永遠の生命がないのと同じくらいに当たり前のことである。日本の江戸時代260年間は、大した経済成長もせず、また人口もほとんど横ばいだったが、人々は平和な生活を享受できて、文化も発展し、衛生レベルも高く(※ペストなどの感染症も少なかった)、世界的にみても極めて稀な時代であった。統一国家でこれほど長期間にわたって平和で文化的な生活が維持された国は(※天候や自然災害での飢饉はあっても)、寡聞にして私は他に知らない。評判の悪い鎖国政策も、悪いことばかりではなかったのだ。

▶環境問題と経済成長が両立しないのは、少し頭を巡らせれば誰でも分かることだ。しかし富が増え豊かな生活が確保できることは誰にとっても嬉しいことだから、人々はこの不都合な真実に目を向けようとしない。だから相変わらず政治家は所得倍増を目標に掲げるが、背後にある成長至上主義と日米同盟の堅持が、同床異夢の近隣諸国との摩擦や引き続く温暖化の脅威を増大させるということを理解していない。

▶世界一の長寿国という地位を確保し、少なくとも一つの幸せの形を手に入れたはずの日本の次に目指すものが、日本だけのものであってはならず、世界のロール・モデルになって欲しいというのが、最近とみに考えることである。目先の選挙を重視する政治家に多くを期待することが無理であることは承知しているが、経済成長と日米安保に依存しない第三の道が果たして可能なのか否か、あるとすればそれはどのような形のものなのか、総裁選でなくとも、どなたか議論の口火を切ってくれる人がいないものだろうか。