マイトレーヤの部屋から

徒然なるままに、気楽な「男おひとりさま」の日常を綴っています。

信貴山そして竜田川の紅葉を見る(奈良編その3)


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▶先日行った奈良の旅のつづき。2日目の午前中は斑鳩法隆寺中宮寺を巡ったことは既に書いた。中宮寺から法隆寺駅まで徒歩で戻る途中、地図を片手のシルバー女性から中宮寺までの道を聞かれた。駅からまず法隆寺ではなく尼寺の中宮寺に向かうというのが一途な感じがして如何にも好ましい。あの女性もきっと菩薩半跏像が好きでたまらない一人なのではないだろうか。

▶さて、この日の午後は信貴山朝護孫子寺に行くのが予定だ。信貴山というのは、大阪府奈良県の境にそびえる生駒山系の南端部にあたり、その奈良県側の山腹に朝護孫子寺があるが、地図を見ると斑鳩法隆寺のほぼ真西に位置していることが分かる。行き方としては、法隆寺駅からJR大和路線を大阪方面に一駅の王子駅北口からバスが出ている。

信貴山といえば国宝「信貴山縁起絵巻」。平安末期に描かれたこの絵巻物は、「源氏物語絵巻」「伴大納言絵巻」と並んで日本三大絵巻の一つである。私が信貴山に拘ったのは、先日東京国立博物館の「やまと絵展」で、この絵巻の本物を見たからである。この絵巻が描かれた信貴山とは一体どんなところかと興味がわき、調べると法隆寺から比較的近くに位置しているので、今回行くことにしたわけである。

▶昼前後に信貴山朝護孫子寺に到着。朝護孫子寺の名前は、醍醐天皇の病気が住職である命蓮上人の祈祷によって回癒したことから、朝廟安穏・守護国土・子孫長久の祈願所として勅を賜ったことに由来するという。さらに、聖徳太子が寅年・寅の日・寅の刻に毘沙門天を感得されたという云われから寅のお寺として有名で、参道には大きな張り子の虎の像が飾られていてよく目立っているが、やや違和感があるのは否めない。
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▶とするともしかして阪神タイガースも関係しているのかと冗談まじりに思ったら、案の定本当にタイガースの日本一を記念した御朱印帳が先日まで販売されていたというから、恐れ入った。さすが関西の寺である。山腹の斜面に広がる寺域には堂宇・伽藍が点在しており、参道も含めて比較的整備が行き届いているところから、寺の財政状態は悪くはないようだ。
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▶参道の紅葉は見頃で、登りつめた本堂の境内からは、奈良盆地が見渡せる。たまたまこの時は太陽が雲に隠れてしまい、風も強くて寒い。参拝後に目当ての霊宝館に入った。ここでは例の「信貴山縁起絵巻」が見られるというので期待が高まったが、展示してあったのは模写絵巻で一気にトーンダウン。本物は現在奈良国立博物館に寄託してあるとか。まあ先日東博の「やまと絵展」で見ているし、入館料が300円では仕方ないかと思った次第。一方で模写ではあったが、絵巻の説明が丁寧になされていたのは収穫だった。

▶再びバスに乗ってJR王子駅に戻る。駅前で軽く昼食を取りながら、次に行く予定の談山神社聖林寺への行き方を地図で確認していた時、現在いる王子駅からほど近い所に「みむろ山」の表記があることを発見。「みむろ山」とはもしかして「あらし吹く三室の山のもみじ葉は竜田の川の錦なりけり(能因法師)」と百人一首に歌われたあの三室山のことかと俄かに心がざわめく。そして近くに竜田川も流れていることを知り、急遽予定を変更して三室山の紅葉を見物に行くことにした。

▶グーグルマップを使いながら駅近くを流れる大和川を渡って住宅地の坂道を上っていくと、前方に小高い丘が見えてくる。さらに続く細い山道を上り切ると突然展望が開けた。頂上付近は公園になっており、そこが三室山の頂上だった。周囲に植栽されたカエデの紅葉は今が盛りである。山の上から眺めると下に川が流れており、先ほど渡った大和川かと思ったが、それが竜田川だった。
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竜田川は、みむろ山の裾を巻くように流れて大和川に合流している。三室山を下りていくと歌碑が立っている。先程の能因法師の和歌とともに「ちはやぶる神代も聞かず竜田川からくれないに水くくるとは」というこちらも有名な在原業平の歌が刻まれていた。私が子どもの頃、最初に覚えた百人一首の歌がこの業平の「ちはやぶる」の歌だった。かつて能因法師が眺め、業平が感動した三室山と竜田川の紅葉を、千年の時を経て同じ場所で偶然にも自分も同じように見ているのだと思うと、ありがたいと思わずにはいられない景色である。
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▶現在の竜田川も、両岸にはカエデが植栽されており、紅葉が美しい。この日も紅葉見物に訪れたと思われる人がしきりに写真を撮っていたが、あいにく晴れたり曇ったりの天気で、日射しが遮られると紅葉の色も今一つとなる。竜田川の畔を散策しながら私も何枚か写真を撮った。能因法師や業平が見たように、竜田川が散り浮かぶ紅葉によって錦のように彩られる様は見ることはできなかったものの、いにしえの竜田川こそはさぞかし美しかったんだろうなと思いつつ、駅までの道を歩いた。
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▶朝早くの法隆寺から信貴山、そして紅葉のみむろ山と竜田川を歩き回るとさすがに疲れが出た。時刻はまだ午後3時だったが予定を切上げて奈良駅前の宿に戻ることにした。明日は薬師寺から唐招提寺を巡るつもりなので、今日行くことができなかた桜井市談山神社聖林寺は来年以降の課題で残して置くしかない。宿に戻って一人温泉に浸かったが、やはり奈良の旅はいいものです。