マイトレーヤの部屋から

徒然なるままに、気楽な「男おひとりさま」の日常を綴っています。

東京国立博物館やまと絵特別展に行く


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▶16日は、以前から行きたかった上野の東京国立博物館の特別展「やまと絵」に行ってきた。たまたま夕方から東京で飲み会の予定があり、どうせなら日中の空いた時間を利用して東博(トーハク)に行くのもありかなと思い、出かけていくことにした。上野には昼頃に着く。当日はとても天気が良かったので、木陰のベンチに腰を下して、コンビニで買ったサンドイッチと牛乳で軽い昼食をとった。周囲には外国人観光客も多く、思い思いに東京の秋を楽しんでいる。まことに平和な風景だ。

▶今回のやまと絵の特別展は、東博としては30年振りということで、相当力が入っている。いただいたパンフレットには、受け継がれる王朝の美、これぞ日本美術の王道、教科書で見た「あの」作品が目白押し、とのフレーズが並ぶ。出品されている作品は、全部で245点だが、数えてみたら国宝が53点、重文にいたっては数えきれない。あまりの多さに一度では展示しきれないので、会期の途中で展示替えをしているとか。一日で全てを見られないのは残念だが、仕方ない。

▶やまと絵とは、中国由来の唐絵に対し、平安前期から日本独自に発展してきた世俗画のことで、鎌倉以降に中国から漢画と呼ばれる水墨画の様式が入ってくると、それ以外の伝統的な着色画をやまと絵と称するようになったらしい。要するに中国風の絵画に対し日本の風景や風俗を題材にした日本風絵画ということになるわけだが、形式としては絵巻物、屏風絵、掛け軸といったものが主体である。

▶今回の展示の見どころは、鎌倉・室町の屏風絵と平安・鎌倉の絵巻物で、前者の代表は室町時代の日月四季山水図屏風(大阪・金剛寺)や浜松図屏風など、後者は日本絵巻史上の最高傑作と言われる四大絵巻(源氏物語絵巻信貴山縁起絵巻、供大納言絵巻、鳥獣戯画)と三大装飾経(久能寺経、平家納経、慈光寺経)だ。特に四大絵巻は、「昔教科書で見た」とパンフレットに書かれている通りのものである。
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▶午後1時過ぎに特別展が開催されている平成館に入館し、展示室がある2階に上がっていった。平日だったので、驚くような混み方ではなかったが、目ぼしい作品の前には行列ができている。時間はたっぷりあるので、まずどこに何が展示されているのかを把握するために全ての展示室をざっと一回りし、二回り目にじっくり鑑賞する作戦をたてる。観賞用に双眼鏡を持参したのは正解で、屏風絵の細部も驚くほどよく見えるが、じっくり見ていると双眼鏡を支える腕が疲れてくるのが玉にキズ。

▶とにかく国宝がゴロゴロしているので、目移りがするが、屏風絵は迫力があり、かつよく細部まで描き込んでいると感心する。四大絵巻のうち、源氏物語絵巻は引き目かぎ鼻が有名だが、展示されている絵は欠損部分があってやや見にくく、そもそも話の筋を知らないと楽しめない。一方、信貴山縁起絵巻は、奈良の朝護孫子寺の開祖・命蓮をめぐる説話物語で、こちらは話の筋がビジュアル化されているので分かりやすく、単純に面白い。源氏物語絵巻と異なり、こちらは10数mにわたって絵巻物を展示してあって迫力満点だ。

▶絵巻物とは何かと言えば、これは要するに現代における漫画のことだと言ってもいいのではないか。専門家は否定するかも知れぬが、日本アニメの源流は意外とこんなところにあるのかもしれない。とにかく鳥獣戯画百鬼夜行に至ってはまったく漫画そのものである。地獄草紙や餓鬼草紙も漫画的だが、描かれている内容はおどろおどろしい。いずれにしても、絵はもちろんのこと、もし絵巻物に書かれた文章が理解できれば、絵巻物は更に楽しめるはずだ。ただ現代の我々には殆ど読むことができないのがなんとも残念である。しかし、当時の天皇や貴族は絵巻物をきっと面白がったのでしょうな・・・。

▶一方、美術品として見た場合に他を圧倒して素晴らしいのは三大装飾納経。この中でも平清盛厳島神社に納経した平家納経は、ほとんど全巻にわたって隅から隅まで絢爛豪華に装飾された超一級品で、言葉で説明を聞くより実際に見るのが一番だ。いにしえの仏教関連の美術工芸品としては、保存状態の良さや工芸品としての完成度の高さからみて、まさに日本が世界に誇れるものの一つであろう。

▶展示室を二回りしたところで午後4時となる。最後にもう一度見る前に、ミュージアム・ショップに立ち寄って、今回特別に作成された大判の図録を購入する。ずっしりと重いこの図録の豪華さは、今回の特別展の素晴らしさにひけをとらないもので、価格は3300円と高価だが、今回の展覧会の展示が全て網羅されており、精密な写真とそれに関する詳細な説明書きが索引化されているのがいい。また今回の図録用に特別に書かれた文章も楽しめそうだ。
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▶図録を手に入れたので安心して最後にもう一回り展示室を巡った。この時間になると人波は殆ど消えていて、見たい作品を重点的にじっくりと鑑賞することができた。結局午後5時の閉館時間まで粘り、蛍の光の音楽が流れる平成館を後にしたが、外はもう十分に暗く、寒くなってきたので上着の襟を立てながら、ライトアップされた噴水を横目に上野駅に向かった。

▶その夜は神田駅の近くの居酒屋で、昔の会社の友人達と楽しく酒を飲み、午後10時頃に重い図録を抱えて千葉の家に帰った。