マイトレーヤの部屋から

徒然なるままに、気楽な「男おひとりさま」の日常を綴っています。

夏の八甲田山と酸ヶ湯温泉


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▶冬季には雪積が5メートルを越える豪雪地帯のため、天気予報番組では有名な酸ヶ湯青森県八甲田山中にある。約300年ほど前に開湯された酸ヶ湯の一軒宿である酸ヶ湯温泉は、豊富に湧き出す酸性硫黄泉と、160畳はあろうかという巨大な混浴風呂の「ヒバ千人風呂」によって、多くの湯治客から愛され、昭和29年には「国民保養温泉地第1号」に指定されているとか。その宿から北東方向を望めば、そこには八甲田山の主峰・大岳(1584m)が聳えており、酸ヶ湯は大岳登山の主要な登り口となっている。
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▶大変都合の良いことに、酸ヶ湯から大岳頂上までは全く異なる2本の登山道によって結ばれており、酸ヶ湯から出発した登山者は、仙人岱、大岳頂上、上毛無岱、下毛無岱を通って、反時計回りにあたかも一筆書きを描くように、大岳頂上を経て酸ヶ湯まで戻ってくることができる(※もちろん、逆回りも可能)。こう書いていると、何だか酸ヶ湯の回し者のように思われるかもしれないが、要するに温泉好きの登山愛好家にとっては、酸ヶ湯温泉は絶好の場所にあるのだ。

▶2009年8月初旬、私は愛車のスバルレガシーを駆って妻と4泊5日の東北旅行をしたが、この時は平泉の中尊寺を経由して、十和田湖から八甲田山に入って酸ヶ湯に泊まった。さすがに八甲田山には登らなかったが、偶然にも大阪在住の会社の先輩が奥様と一緒に酸ヶ湯に来られているのに遭遇するという珍しい体験をした。最初にこの先輩らしき人を見かけたのは、混浴の「ヒバ千人風呂」の中だったが、似ているとは言え、まさか本人とは思わない。翌朝食堂の中でバッタリ顔を合わせ、それが先輩であることを確認したのだが、後で妻が「昨日は混浴に入らなくてよかった」と言ったのには思わず笑ってしまった。

▶そして今回、7月4日から酸ヶ湯に行き、八甲田山・大岳の単独登山にチャレンジすることになった。登山は足腰が丈夫なうちでないとできないので、やるなら今しかない。思い立ったが吉日である。しかし、6月には念願のパリ旅行の計画があり、帰国後の間無しの時期なので、本来なら夏の盛りに計画するのがベストだったが、酸ヶ湯温泉に連泊する困難さや前後日程の都合も考慮して、結局7月初旬の計画になった。

▶それでも、同じ部屋を連泊することはかなわず、1泊目は湯治棟、2泊目は旅館棟と変則的な宿泊となる。梅雨時の天候の変化も考え、当初から余裕を見て3泊は予定しておいたが、湯治目的ではないので、さすがに酸ヶ湯に3泊は芸がない。そこで3泊目は以前から行きたかった蔦温泉にしたのだが、これは結果的にベストな選択となった。蔦温泉については、別に書く。

▶7月4日は、青森空港からJR青森駅までバスで行き、そこから午後2時発の酸ヶ湯温泉の送迎バスで酸ヶ湯に入る。十数年ぶりの酸ヶ湯は、外見は殆ど変わっていなかったが、インバウンドの増加を見越して、ラウンジなどの内装を大幅に手直ししている。案内された湯治棟は昔ながらの全てセルフの簡素な部屋で、遍路宿のごとく既に布団が敷いてあって、テーブルのポットの湯は自分で沸かしてくださいとあったのには当然とはいえさすがに驚く。共同の台所で湯を沸かしていると、他の客が来て、話がはずむ。昔の湯治はかくの如しか。そのあと飛び込んだ「ヒバ千人風呂」は、久し振りに懐かしい昭和の時代を思い起させるものであった。大量の源泉が注がれる白濁した硫黄泉は抜群の入り心地だ。
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▶翌5日は、朝から天気も上々で、午前8時に宿を出てすぐ近くの登山口に向かった。登山道に入るとすぐに登りになるが、しばらくすると3人連れの私と同年代の女性グループに追いついた。やや話し声のうるさいオバさん達を追い抜いて、少しぬかるんだ道を黙々と40分程登るとさすがに息が上がってきたので小休止。すると先ほどのオバさん達が私を追い抜いていく。最近のオバさんは元気がいい。
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そこから登り続けること約50分で仙人岱という名の湿地帯に到着。
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ここで再びオバさん達に追いついた。ここの湧き水で水分を補給するつもりだったが、水量が殆どないので断念。

▶仙人岱からは前方に大岳頂上が大きく見える。まだ結構あるなと思いながらも、意を決して登り始める。しばらく登ると大きな雪渓があり、その時後ろから来た若い男性が私を追い抜いて雪渓を登っていく。
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今回はストックを持って来なかったので、滑らぬよう用心して雪渓を登る。雪渓を越えるとハイマツ帯となり、さらに岩場の急登が続く。このコースは初級~中級のはずだったが、これが結構キツイ。しかし登らないことには頂上に行けないので、とにかく登る。やっとのことで岩場を登り切ると鏡沼という小さな沼が見えてきた。ここは昔の火口跡に水が溜まったものだ。

▶鏡沼から頂上までは更に岩場が続く。本来階段があるのだが、荒れていてとても階段とは呼べない岩場をよじ登る。そして午前10時半、八甲田山の主峰大岳山頂に到着した。宿から正味2時間半の行程だった。
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頂上には既に数名の人達が休んでいたが、360度に視界が開けているのは最高に気持ちがいい。本来なら北に津軽海峡、西に日本海、東に太平洋が見えるとされているが、晴れてはいるものの残念ながらそこまでは確認できない。ただ、北方には青森市内が眺められた。腰を下ろすと汗が引いていく。

▶山頂で10分程休憩をしたのち、今度は反対方向に下っていく。この道も荒れている急坂だが20分で大岳避難小屋まで降りてきて、そこから分岐点を左に上毛無岱に向かう。上毛無岱は湿原になっているので高山植物のお花畑を期待したが、時期が遅いのか早いのか、花はほとんどなくて一面の緑の原になっている。12時に上毛無岱の休憩場所に到着。ここで宿から持参した弁当を食べる。しかし、天気が良くて、本当に今回の登山は運が良かった。
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▶そこから更に下ると下毛無岱に入るが、そのまま歩き続けて樹林に入ると酸ヶ湯方面の標識が見えてくる。登山道は所々にぬかるみが残り、必ずしも歩きやすくはないが、ここで転んでは元も子もない。慎重に歩きながら樹林帯の九十九折りの急坂を下っていくと、眼下に酸ヶ湯温泉の屋根が見えてくる。午後1時に酸ヶ湯温泉に無事到着。ヤレヤレの気分だ。昼過ぎの帳場は閑散としていたが、ここで再度チェックイン。今晩は旅館棟なので、床の間と広縁がついた渓流沿いの部屋にグレードが大幅にアップした。
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▶登山を終えての温泉は至福の気分だ。混浴ではない男女別の「玉の湯」に行くと時間が早いのか私一人のみ。ゆっくりと温泉につかっていると、身体から疲れが沁み出ていくようだ。部屋に戻って売店で買ってきた缶ビールを飲むと、とたんに眠くなってきて、そのまま布団を敷いて瀬音を聞きながら眠りに落ちたのは最高でした。とにかく、今日は念願の八甲田山登山が無事に終わったのが、なによりも嬉しい。明日は、奥入瀬渓流を歩いて蔦温泉に向かうが、続きはまたの機会に。