マイトレーヤの部屋から

徒然なるままに、気楽な「男おひとりさま」の日常を綴っています。

バチカン美術館とは何か


f:id:Mitreya:20240311161345j:image
▶先週の木曜日にバチカン美術館に行ってきた。世界中のどのガイドブックを見ても、ローマに行ったら必ず行くべしと書かれているように、この美術館は観光客にとっては必見の場所である。故に混雑することは当然覚悟の上である。ところで何が必見かと言えば、システィーナ礼拝堂ミケランジェロの壁画「最後の審判」と、通称ラファエロの間と云われる所にある一連の壁画だろうか。
f:id:Mitreya:20240311161449j:image

▶当日は午前9時過ぎに入館して午後3時前まで中にいたので、時間的にはかなり費やしているはずだが、今覚えているのは上記の壁画くらいで、それ以外の記憶が乏しいのはどうしたことだろう。あまりにも展示している美術品が多すぎるというのが一つの理由だが、館内が混雑しているので人の流れが美術館側によってコントロールされており、我々はさながらベルトコンベアーの上に乗って、次々に流れ来る美術を鑑賞している状態に置かれていることが大きい理由かも知れない。

▶私も入口でオーディオ案内をレンタルして臨んだが、今になって思えばそこには主体性がなく、鑑賞するというより、鑑賞させられているという受け身の姿勢に終始した感がある。一つ驚いたことがあるのだが、全て見たつもりが不思議なことに壁画以外の絵画を見た記憶がないので色々思い返すも、どうも私は絵画館に行っていないのではないかと思うようになった。バチカンでは絵画館も必見の場所の一つと云われている。

▶ここでは入口で渡されるA4一枚のシンプルな鑑賞のフロー図以外、館内案内図というようなものがない。ルーブルでは館内マップが配布されるので自分の好みに従って館内を自由に移動できるが、ここではゴールのシスティーナ礼拝堂に向かって、ただただ迷路のような館内を指示されたままに移動して行くのみである。途中に立ち止まってオーディオ案内を聞くことはできるが、更に混雑が進めば、それも不自由になるかも知れない。

▶絵画館に行っていないのではと思うようになった一方で、案内に従って移動しているのにそんな馬鹿なハズはないという思いもあり、今になっても正直分からない部分が多い。ただしスマホに一枚も絵画(壁画を除く)の写真が残っていないのは事実だ。まあ見ることは見たのだが、単に記憶がないだけかもしれぬが・・・。

▶もう一つ強く印象に残ったことがある。それは、これだけの美術品を集められるローマ教皇とは、一体どのような存在なのかという思いである。現在バチカンに収蔵されている美術品がどのくらいあるのかは知らぬが、その殆どは歴代教皇が金を出して自ら集めたか、あるいは各国の王や貴族(場合によっては一介の金持ちの個人も含め)から寄贈を受けたものである。
f:id:Mitreya:20240311161609j:image

▶要するに、これだけの冨を独占するローマカトリック教会というのは、私の宗教観としてはどこか異常に感じるのだ。イエスが亡くなって数十年の後、パウロなどの使徒の働きによって原始キリスト教が成立し、同じ頃に新約聖書が執筆された。中東イスラエルに始まったキリスト教は、ローマ帝国内で次第に力を蓄え、紀元313年にはコンスタンティヌス帝が発出したミラノ勅令によって公認される。

▶392年にキリスト教ローマ帝国の国教に格上げされるも、その僅か3年後にはローマ帝国自身が東西に分裂し、476年には肝心の西ローマ帝国ゲルマン人によって滅ぼされる。ところが、ここから当時既に力を持っていたローマ司教(司教区の長)が更に力を発揮して行くのであり、次第にローマ司教はローマ教皇と呼ばれ各地の司教を束ねる存在となっていくのである。

▶要するに、5世紀末にローマ帝国は倒れ(※なお東ローマ帝国は、その後ビザンティン帝国として生き延びるが、1453年にオスマントルコに滅ぼされる)ヨーロッパはキリスト教が支配する中世の時代に入って行くのである。

▶と云うことは、その後はローマ教皇こそが実質上の西欧の支配者だった訳で、十字軍を始めたのもローマ教皇なら、当時のローマ王ハインリヒ4世を破門にして3日間も裸足のままカノッサ城外に立たせたのも(※所謂カノッサの屈辱ローマ教皇である。この時期、イエス・キリストの現世における代理人であるローマ教皇は、世俗的にみればイエスを超えてしまったのである。

バチカンに残るルネサンス時代の多くの壁画には当時の教皇が描かれているが、その殆ど全ては教皇の事績を称える内容で、何のことはない、教皇自身が画家達に描かせているのだから笑ってしまう。それを批判することができないほど、当時のキリスト教なかんずくローマ教皇の権威と権力は大きかったと言うべきだろう。バチカン美術館は、ローマ教皇の何たるかを、21世紀に生きる我々に現在もそれとなく教え続ける、カトリック教会にとっては極めて貴重な場所なのである。

▶いささかシニカルな紹介となったが、ラファエロミケランジェロが凄いのは、そのような中世キリスト教のしがらみをこえて、芸術の力によって己の信じるところを伝えていることで、彼らがキリスト教を描くもキリスト教に媚びているような感じがしないのは、ミケランジェロの「最後の審判」やラファエロの「アテナイの学堂」を見れば分かる。それこそが、ギリシャ・ローマの時代に戻ろうとするルネサンス運動の真髄なのかも知れない。
f:id:Mitreya:20240311161652j:image

▶なお瑣末なことではあるが、丸善で購入した地球の歩き方の最新イタリア版(2020〜21)を見ると、バチカン美術館のオープン時間が午前9時となっているので、1時間以上前の午前8時前に行って列に並んだところ、8時過ぎから列が少しづつ動き出した。後で調べたら現在の開館時間は午前8時だった。

▶なお、それ以外にも各種料金や入場料が記載された数字と殆ど異なっており、コロナ影響かインフレ影響かは分からないが、イタリアに限らずヨーロッパが大きく変化していることだけは事実のようだ。